Arafudo Art Annual 2014!

Festival of Art, Tsuchiyu Onsen, FUKUSHIMA

Interview with 清水玲

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漢字のような見た目のひらがなを作る清水玲。漢字のルールで読むときは読めない文字が、頭のなかでひらがなのルールを当てはめると突然物語が浮き上がってきます。民家園の歴史的背景とそれとは断絶された新しく続く時間。言い伝えと噂と現実を、当たり前として構成している作品はどのように観客に読まれていくのでしょうか。

清水玲|Ryo Shimizu

1977年香川県生まれ、神奈川県在住。空間とその背景との関係性に着目した作品を制作している。 2010年、第2回モスクワ国際ビエンナーレfor Young Art出展、2011年1月、十和田市現代美術館および中心商店街各所にてアノニマスカワード企画展 街なか美術館 「トワダビト:⇔清水玲」、2014年8月、Institute of Contemporary Arts Singaporeでのグループ展「The Beach That Never Was」出展 等。2014年11月7日から静岡県富士市にて開催される「富士の山ビエンナーレ」に参加予定。

民家園 旧馬場家『置く 換える 移す』,2014

民家園 旧馬場家『置く 換える 移す』,2014,一番左の文字は「姿を熊に変えられ」と読める

今回の出品作『置く 換える 移す』について

既存の漢字の筆画を間引くことでひらがなやカタカナに置き換える換字による作品です。今回は、旧馬場家(民家園)の二間続きの座敷部屋にやや不安定な構造物を置いていき、そこに滞在制作を通じて書き起こしたテキストを換え字として配置していく、ということを試みました。

鑑賞者は、配置された換え字が読むことのできる文字であることに気付いた瞬間から、見ることと読むことを反復しながら空間との対話が始まります。会期終了時には、参加者に配置した文字を集めて持ち帰ってもらうワークショップを行う予定です。

書き起こしたテキストは、旧馬場家がもともと建てられていた南会津の山村の(実際に現地に伺ってリサーチした)様子や、資料に残っている漢方医だった主の人物像、民家園のすぐ近くにある巨石広場に伝わる妖怪の話、最近民家園周辺で熊が出没するという現実で起きている身近な問題、民家園で行われた月見の催事、滞在制作中に出会った方々にインタビューした内容から起こした架空の物語で、代々語り継がれている過去の出来事が当事者の都合のいいようにすり替えられたものだった、という内容です。

どういった経緯でこの作品を作ろうと考えましたか?

ふたつのことが大きなきっかけになっています。ひとつは旧馬場家の移築前と後のズレについて、もうひとつは最近民家園周辺で熊が頻繁に出没するようになったということです。

この旧馬場家は、約200年前に南会津の山村に建てられた漢方医の邸宅が民家園に移築されたものです。普段は、建物内部に家具や農具、着物などが展示され、当時の様子が再現されています。面白いことに、移築前と後で建物の向きが約90度振れていたり、室内の展示品は馬場家とは関係のない市民の方々からの寄贈品だったりします。

また、民家園周辺で熊が出没するようになったのは、ここ1、2年くらいのわりと最近の出来事だそうで、放射能による影響や風評被害の問題で収穫しない畑が増えたことが関係しているという話を聞きました。それがどこまで事実なのかは分かりませんが、以前に比べて熊が頻繁に出没するようになったということは、事実として目の前で起きています。

私は、これら建物の移築前と後との間にある(過去を継承していく過程で起きた)ズレと、熊が出没するという身の危険を連想させられる出来事の背景に目に見えない問題が横たわっているという構造に着目し、既存の展示を利用して少しずつ手を加えていくかたちで、いくつかのフィクション(作品が成立するためのゆるい条件)を配置していこうと考えました。

この部屋にしばらく身を置くことで、室内に入る風をうけて時折ゆれる熊よけ鈴や、会期中少しずつカビていく月見団子、民家園内に1時間に1回流れる熊出没の警戒を促すアナウンス、2日に1回虫除けを兼ねて囲炉裏で薪が焚かれることなどがじわりじわり繋がっていきます。鑑賞者にとって、移築前後のズレをみるという点では普段と変わらない体験かもしれませんが、私の試みが介入することで、それがより普遍的な構造として経験できないかと考えました。

民家園 旧馬場家『置く 換える 移す』,2014

民家園 旧馬場家『置く 換える 移す』,2014

制作中に印象に残ったエピソードがあれば教えてください

熊よけ鈴をつけて作業したこと、民家園に遊びに来た子供たちに(旧馬場家で制作しているので)「馬場さん」と呼ばれたり、帰り際に「やーい、おまえんちお化け屋敷~」とか言われたことですかね。

今回は公開制作というかたちでアラフドのオープニングから約1週間ほどかけて公開制作というかたちでつくっていきました。とりわけ「公開」をサービスにすることなく淡々と作業していたのですが、制作中に観に来て下さった方と話すことで自分の考えがまとまったりして助けられた部分も多かったです。民家園にはアラフドを知らない民家好きの高齢の方や家族連れの方などが偶然立ち寄ることも多く、そういう方とお話しするのも楽しかったです。

民家園好きの方たちは、建物の向きが約90度振れている話をすると目を輝かせて、箪笥の金物の意匠が地域によって違うことや屋根裏にある子孫繁栄のお守りのこと、当時の生活の様子など様々なことを教えてくれました。また、昨年のスナックすずらんでの展示を覚えて下さっていた地元の方が滞在制作中に何度か足を運んで下さったりしてうれしかったです。


ありがとうございました。interviewer:yumisong.