Arafudo Art Annual 2014!

Festival of Art, Tsuchiyu Onsen, FUKUSHIMA

Interview with アスラ・バーク

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伝統こけしの展示ケースの中に紛れている陶器作品。それはレースの仮面を被せられた牛や、プラモデルのような銃を持った人間、交尾する羊などなど。手に取れるサイズの陶器作品は、工芸製品としての完成度も高い。見た目の可愛さやキッチュさとは裏腹に、紛争の多い北アイルランドに住むアスラ・バークの作品は、政治に対してのメッセージやアイデンティティのあり方が込められている。

アスラ・バーク|Ursula Burke

彫刻、写真、陶磁器等、様々なメディアの作品を作るアイリッシュの芸術家。
彼女のアート活動は現代のアイルランドの中でのアイデンティティや表現のあり方を扱っている。 アルスター大学大学院の博士号取得。2014年にブリティッシュ・スクールにおけるローマ・フェローシップを北アイルランド・アーツ・カウンシルより受賞。

「紛争の芸術」アルスター博物館、2014年;「6月展」ブリティッシュ・スクール、ローマ、2014年;「オープンスペース」ローマ・アカデミー、ローマ、2014年;「過去は予測できない」エフイー・マクウィリアム・ギャラリー、バンブリッジ、2014年;「良い過去への希望」ザ・マック、ベルファスト、2013年;「スコープ・ニューヨーク・アート・フェアー」2014年、2013年、2012年;「協定の事例」高苑アート・センター、台湾、2011、等国内外で展示している。

彼女の作品は北アイルランド・アーツ・カウンシル、アイルランド公共彫刻事務所、国内外の様々な個人コレクションになっている。現在彼女はPS2ギャラリーでキュレーター・レジデンスの最中である。彼女は、アウトランド・アーツのアーティストメンバーで、ベルファストのゴールデン・スレッド・ギャラリーの取り扱いアーティストである。
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「理想の必要性」と古代についての議論で出てくる「理想的社会」を繋ぐ橋渡しをさせてくれるのです

北アイルランドはベルファストを長い間拠点として活動していますが、紛争社会という環境に住むことで、アーティストとして受ける影響があるとすれば、それはどんなことか教えて下さい。

はい。ベルファストに住むことは、私の活動において大きな意味があると思います。根本的に自分の活動は、アルスター大学の博士号での研究をもとにしてます。私の博士号の研究課題は、国境を介した南北を問わず、現代のアイルランドの中で、どう自分のアイデンティティを構築して表現するかということです。
アイルランドの南側(アイルランド共和国)で育った自分は、北アイルランド(イギリス)に移住してからすぐに、カトリックのアイルランド人のアイデンティティの見せ方が、カトリックだけども北アイルランドで育ったものとのアイデンティティの見せ方と明らかに違いがあると感じました。

私にとってのアイデンティティとアイデンティティの見せ方は問題ないですが、自分の周囲の人々は日常的に自分達のルーツにある文化の特徴を明らかしようとすることに終始するのです。このように、同じ人種でありながらも2人の人間の間に文化的分裂が起こることが自分の活動の興味対象です。

私の作品は北アイルランドの紛争によるトラブルに関係ある一般的なテーマと複雑なテーマを従来からの古典的彫刻技法に落とし込んでいます。ポスト・コンフリクト(脱紛争)社会の北アイルランドにおける社会的シンボルや現代的な記号の上に、古典的な隠喩表現のレイヤをかぶせた作品で、古典的な要素と現代的な要素の衝突が起こっているのです。
その作品は利権が対立し、部族間の争いが続く社会の中でのアイデンティティとその見せ方に関しての普遍的な問題を提起しようと企むものです。

様々なメディアを使った広範囲のあなたの活動のなかで、特に最近、磁器のメディアをよく使う理由があるなら、教えて下さい。

私の活動では磁器をよく使います。私の興味を掻き立てるシュールレアリズムの造形を思うようにつくりやすい、鋳込み成形のプロセスが根本的に好きです。これをファインアートの土俵にもって来た時に、純粋装飾的なものから挑発的なものまで表現可能なこのメディアの中で、既成概念を打ち壊すことに、私の活動における普遍的なテーマがあります。

最近つくっている大きなサイズの作品は、パリアン大理石に匹敵するほど有名な、固い磁器ペースト状のパリアン磁器を利用して作ります。彫刻に使う素材は古代ギリシアやローマ彫刻で使われているものです。パリアンは火に通した後はすごく固くなるのですが、肉付きがよいのと同時に一般的には大理石に匹敵する特徴を持っていると言われ、柔らかさと弾力がある性質の素材です。

根底には古典的な基礎を踏まえながらに、色とシュールレアリズムの要素の実験のために大きな可能性を与えてくれる。この材料を使って仕事をすることは技術的にも、美術的な意味でも、私をとてもわくわくさせてくれます。内容において、古代を引き合いに出す事は、自分に脱紛争社会の中でずっと日の目をみることのなかった「理想の必要性」と古代についての議論で出てくる「理想的社会」を繋ぐ橋渡しをさせてくれるのです。

日本の福島の原発事故のことを、海外に住む外人としてどう考えていますか?また「アラフド・アート・アニュアル2014」に参加することにどういった意義があるのか、外国人アーティストの立場として考えることがあれば教えて下さい。

福島で開催される芸術祭に参加できることをすごく嬉しく思います。ベルファストのような脱紛争社会に住むアイリッシュアーティストとして、そういう大変な環境に住む人々のユニークで挑戦的な試みをする生き方に共感します。

Balaclava

『Balaclava Bust』 2014, Parian porcelain & lace

今回展示する作品について詳しく教えて下さい。

今回「アラフド・アート・アニュアル2014」に出品する作品は磁器とパリアン磁器の作品の混合です。2010年から現在までの北アイルランドに関連した社会政治学的事象に対しての返答的な作品です。幾つかの作品は、マイセン磁器※1のパロディで、その他はバラック磁器※2の同じくパロディです。作品の中に美術史のレイヤや国内のみならず世界中に共通するキッチュやシュールな要素を盛り込んでいます。

※ 1 西洋白磁の頂点に君臨するドイツマイセン地方の磁器
※ 2 北アイルランドのファーマナを拠点とする磁器業者

もしあなたが新しい作品を作ろうと思っている時に、新しいアイデアやモチーフを得るためにしていることがあれば教えて下さい。

私はよくイメージや記号やシンボルをアートや文化の中に見つけます。北アイルランドに15年以上住んだ結果として、新しい作品を作り出そうとした時に毎日の生活の中で書き留めた、文化や紛争をモチーフとした数えきれないイメージの断片を今までたくさん集めてきました。美術史、ニュース画像、文学的な文章やインターネットの情報といった様々な媒体を、新作を作る際のリサーチに使います。人気があり複雑なアイルランドの文化に関連する記号やシンボルについてよく考え、それらいくつか影響をもとに、複数のレイヤの層をつくり、複数の意味を持った作品を作ります。

「アラフド・アート・アニュアル2014」のテーマ「Tolerance 奇妙な他者との対話」とあなたの出品作品が関係があるとすれば、どのようなことですか?教えて下さい。

はいあると思います。ただ、おそらく少し別の意味合いのものではないでしょうか。紛争が現在進行中の脱紛争社会の市民として、派閥争いの暴動や爆弾テロ未遂等、私たちは休みない我慢を強いられる状況に慣れてきていると思います。それらは私たちの日常生活の存在の一部にまでなっているのです。私が作品に使うシンボルの多くは脱紛争社会の生活の中でいつも我慢をしている対象のネガティブで、暗く、時に滑稽な特徴をもったものです。同じ意味合いでは、私は原発事故のあった福島に住む住民たちは事故の影響後の状況を我慢するか、それとも福島を去るか強いられているのではないかと思います。

技術的に完璧を目指す心構えや、工芸的に美しい作品に大きな敬意を払います

現在、興味のあるモノや人、事象があればその理由も含め教えて下さい。

私は最近スイス人アーティストでネオ・ダダ彫刻家のウルス・フィッシャーの作品に大変興味をもってます。彼のシュール且つ知的な美術史の引用がうまいところやしっかりとした技術や隠喩の使い方が大好きです。私はまた、カナダ人アーティストのシャリ・ボイルの磁器彫刻も好きです。ルイーズ・ブルジョア、インカ・ショニバレ、ジアン・ロレンツォ・ベルニーニ、アントニオ・カノバとカラバッジョは自分にとって全てが素晴らしいリサーチや興味の素晴らしい源を提供してくれます。

制作する上で常に気をつけていることがあれば、教えてください。

技術です。彫刻作品を作る時には、自分は心底伝統主義者で、技術的に完璧を目指す心構えや、工芸的に美しい作品に大きな敬意を払います。

ご自身のアートの楽しみ方があれば、教えてください。

自ら作品を直接見る意外にないと思うように、世界中の美術館やギャラリーを訪れるのが好きです。フェローシップを受賞して、最近半年をローマで過ごしましたが、パブリックとプライベート両方のスペースで信じられないほどの量の古代美術を見るのに、ものすごい長い時間をついやしました。その経験がアーティストとしての自分をすっかり変えてしまったと思います。


ありがとうございました。Interviewer: 増山士郎