Arafudo Art Annual 2014!

Festival of Art, Tsuchiyu Onsen, FUKUSHIMA

Interview with 岸井大輔

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バナナは日本では芭蕉と呼ばれていました。芭蕉を東京から福島まで移植させたい。岸井大輔のプロジェクトチームは、ディスカッションやパフォーマンスを通して、日本において異和とされているものを扱います。

岸井大輔|Daisuke Kishii

劇作家 1970年生。早稲田大学大一文学部卒。
1995年に演劇以外のジャンルで行われた創作方法による形式化が、演劇でも可能かを問う作品群を発表している。あるいは芸術におけるモダニズムの完遂が、われわれの世代の演劇人の歴史的役割はこの問題と向き合うことだろうと考え、創作の指針とする。
記憶の再生が演技を生み出す事そのものを演劇と見なすプロジェクト『記憶の再生』、判断を全てサイコロに委ねる演劇『P』、まちが表現する状況を設定する作品群『POTALIVE』、人間集団へ出入りする場を演劇として提示するシリーズ『LOBBY』、集団が良い劇を創作する方法の一つを形式化したワークショップのシリーズ『作品を創る/演劇を創る』、日本集団を日本語を通して捉えるプロジェクト『文(かきことば)』などがある。
2009年から2012年には、東京における公共を考えるために、ハンナアーレントの『人間の条件』を戯曲と見なし都内で上演するプロジェクト『東京の条件』実施。会議体/準備室などの諸プロジェクトを通し、人間集団を創る作品を手掛ける。

大学では何を専攻しましたか?その専攻が今の制作にどのように影響を与えていますか?

ドイツ文学です。 モーツアルトのオペラの研究をしました。市民社会と芸術の関係の誕生の時代について考えたことは今とつながっていると思います。

経歴の中から特筆すべき事があれば教えて下さい。

5年ほど、出版社に勤めていました。 あとはずっと演劇をしています。

今までどのような土地に住みましたか、またそこからはどのような影響を受けましたか?

埼玉県の越谷で育ちました。毎年洪水がある、低湿地の郊外で。僕は、モンドリアンという画家が好きなのですが、彼の郷里オランダと越谷が似ているからかもな、と思います。

芭蕉は変であるが、その判断そのものが、通俗的な趣味を強化し、問題を隠蔽してしまう

『福島県土湯温泉に芭蕉(バナナ)を移植するプロジェクト』というバナナを移植しようとしていますが、プロジェクトの説明をお願いします

芭蕉の木を、福島県土湯温泉に植え替えるプロジェクトを行い、その体験からパフォーマンスを作る。

芭蕉は、少なくとも鎌倉時代から日本に自生しているバナナの種類。在来種にはみられない、あからさまな南国風な大ぶりで繊維質な葉と、巨大な花が、自然から浮いている奇異なものの比喩に使われてきた。たとえば能では金春禅竹が芭蕉の精霊を主人公にし、そのナリに感動した松尾芭蕉は自らのペンネームにしてしまうなど、世間を越える天才が自分の魂を仮託してきた植物であるといえる。
カントにつらなる市民社会の夢が、新自由主義により限界に達しつつある後期近代社会である現在は、そのオルタナティヴのひとつを、日本古来のコミュニティや芸術に見出すようだ。俗世間を超出した自由な魂の表現は、万葉の昔から日本にもあった。自然と対立する人間の個性に多様性の基礎を見出した西洋社会と違い、自然の多様性を超越の顕現と見立て、情に押しつぶされそうな世間から離れ、無情(感覚や思考がない物体)への変身を望んできた日本文明は、カントとは異なる方法で感性の多様性を考えてきたといえるだろう。日本人の美意識とは、個性を森の中の芭蕉のように捉えてきた感性であると要約できるように思う。
しかし、同時にそれは、日本の世間において、自由な個性は、変わった植物として受け入れられてしまうことを意味する。芭蕉は変であるが、その判断そのものが、通俗的な趣味を強化し、問題を隠蔽してしまう。例えば、吉田兼好や井原西鶴や夏目漱石は世間に違和を表明したが、その批評は現実を変革していくことはなく、森の中の芭蕉のように居場所を得て無毒化されてしまう。
土湯温泉は、新しいものを受け入れる伝統があるという。それは芭蕉をめでるように、ということなのかもしれない。水芭蕉の群生地としてしられる土湯に、今自生していない実芭蕉(水芭蕉に対してばななをそういう)を移植することを通し、日本世間と自由意思や表現の関係について考察するプロジェクト。

現在、興味のあるモノや人、事象があればその理由も含め教えて下さい。

世間というものの成り立ちです。演劇の素材に使えるな、と思って。

制作する上で常に気をつけていることがあれば、教えてください。

演劇のためになっているかどうかです。


ありがとうございました。interviewer:yumisong