Arafudo Art Annual 2014!

Festival of Art, Tsuchiyu Onsen, FUKUSHIMA

interview with鉾井喬

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4メートルほどの大きな作品が、僅かな風で動きます。学生時代に参加した鳥人間コンテストのパイロットの経験が、見えない風、気をつけなければ感じることもない風の存在に注意を払うようになったという鉾井。また東日本大震災で津波を目の当たりにした体験から、震災やその後の風景に強い影響を受けました。風景と風を両立させる作品をどのように制作しているのかお話聞きました。

鉾井喬|Takashi Hokoi

1984年神奈川県生まれ。福島在住。 風で動く彫刻を中心に制作する造形作家。 学生時代、人力飛行機サークルで鳥人間コンテストに参加し、パイロットとして空を飛ぶ。感じることのないわずかな風に巨大な人力飛行機が翻弄された経験から風に興味を持ち、風で動く作品作りを始める。今は作品を山や海の自然界に持ち出し、そのフィールドに吹く風を映像として記録。彫刻と映像の融合を図る。2010年、NHKカメラマンとして福島県に赴任。昨年夏に退職し、現在は福島市内を拠点に制作活動を行っている。 2010年 福島ビエンナーレ(福島)、2012年 三越×芸大 夏の芸術祭(東京・福島)、2013年 土湯アラフドアートアニュアル(福島)など http://www.hokoitakashi.com

Landscape

Landscape

人が感じないような弱い風に翼の大きさが25mもある巨大な飛行機が横に流されたり、前からの風で急に浮いたり、また落とされたりと風に翻弄された経験があり、目に見えない風という存在に興味を持つようになりました

アルミを素材に制作をしていますが、大学ではどのようなことを学んでいたのですか?

大学ではプロダクトデザインを専攻しながら、現代美術の授業も受けていました。大学院では、デザイン科の造形の研究室にいたので、商用デザイン等ではなく、自分の作品として日々素材と対話しながら造形作品を制作していました。
プロダクトデザインに触れるうちに機能面など工学的な部分を学びました。しかし自己ではなく他者を考えるデザインの世界は自分に合わないと感じていた時に、現代美術の授業で表現の面白さを感じました。大学院では自分に合う、そのちょうど間の様な環境に身を置くことができ、思考を具体的に形にしていく手法を身につけて行くことができました。

風がテーマの作品をいつも作っていますが、何か影響を受けているのですか?

人力で空を飛んだことが影響しています。大学生の時に「鳥人間コンテスト」にパイロットとして出場し、人力飛行機で空を飛びました。
その時、事前に飛行場でテストフライトを何度もするのですが、人が感じないような弱い風に翼の大きさが25mもある巨大な飛行機が横に流されたり、前からの風で急に浮いたり、また落とされたりと風に翻弄された経験があり、目に見えない風という存在に興味を持つようになりました。
表現活動に興味を持った理由も、この目に見えない風に翻弄されながら空を飛ぶ経験であり私の作品制作の原点です。

ちなみに、コンテストの結果は284.55mでした…。目標の10分の1でとても悔しい思いをしました。

福島を拠点にしていますが、福島にはいつから住んでいるのですか?

4年前から福島市に住んでいます。生まれ育ちは神奈川県川崎市、大学で茨城県のつくば市、大学院で神奈川に戻りました。
たまたま就職して最初の赴任先が現在住んでいる福島県だったわけですが、地元の方と知り合っていくうちに、自分が生まれ育った場所に対する愛情や愛着というものを皆持っているということに気付きました。自分にとってはそれがとても新鮮な感覚で、故郷という感覚を教えてもらいました。生まれ育った場所はベッドタウンで、友人も転校が多く、故郷という感覚がよくわかりませんでした。

そのようなことを感じている矢先に震災が起こり、より一層故郷という言葉の意味を考えるようになりました。昨年は震災復興ということをテーマに作品制作をしましたが、今年は以前から取り組んできた方向に考え直し、今もう一度自分の立ち位置を試行錯誤している最中です。

人間の視覚に対する依存は大変大きいものですが、風景という大きなレベルで目に見えない様々なものの存在を再認識することで、気付かず見過ごしているものがあることを考えてもらえればありがたいです。

今回の出品作『Landscape』について

風は目に見えないものですが、その目に見えないものを可視化するという作品です。
ただ、単純に風で動く作品だけを見て欲しいわけではなく、作品とその背景を合わせて風景として作品を見てもらいたいと思っています。
「風景」という言葉がありますが、風は見えません。この作品を通して、目に見えない風を見る「風」景として見てもらいたいです。それは、作品の背景として存在する地球規模の時間で構築された景色と、その瞬間に存在する風という相反するも、関係性のあるものの両方を対比することでもあります。

このコンセプトから作品が展示してある場所の風景だけでなく、土湯温泉や福島市西部地区の様々な場所の風景を見てもらいたいと考えるようになりました。そのために、作品を分解してコンパクトに持ち運べるように作り、およそ幅5m、高さ1.8mある作品ですが、軽トラックの荷台に積んで様々な場所に移動、設置できるようにしました。福島市西部地区の田んぼや土湯の女沼など、今回のアラフドアートアニュアルの会場になる場所に仮設置をし、その風景を映像撮影し、映像作品として3面投影で上映することにしました。

また、会期中に立体作品は3カ所の設置場所を移動します。風景を見てもらうためには作品設置場所を移動させることが一番だと考えました。四季の里、土湯温泉街、空カフェの順で標高を上げて場所を変え、空カフェでは紅葉の時期に作品が置かれる予定です。

このように、映像作品と立体作品が展示されるわけですが、映像と実体験の双方から福島の風景を見て感じていただきたいと考えています。また、映像作品と立体作品の立ち位置として、作品のメインは映像であり、それを体感する場として立体作品を置いています。

この風景を記録して風を可視化する行為は目に見えるものが全てではないことも示しています。人間の視覚に対する依存は大変大きいものですが、風景という大きなレベルで目に見えない様々なものの存在を再認識することで、気付かず見過ごしているものがあることを考えてもらえればありがたいです。

どういった経緯でこの作品を作ろうと考えましたか?

もともと風で動く彫刻を作っていましたが、彫刻と風景の融合を図りたいと思い、風景レベルで見てもらえる作品を考えるようになりました。昔から山岳風景など風景写真などはよく撮っていて、風景は私の創作活動の根源的な部分に位置しています。

制作中に印象に残ったエピソードがあれば教えてください。

土湯温泉の女沼で設置、撮影している時に、身体では全く感じない風で作品が動いた時に驚きました。今まで、幾つかの風で動く作品を制作してきましたが、その中でも特に敏感な風に反応するような作品になったと思います。それと同時に沼の独特の地形が風に与えた複雑な影響も大きいと思います。

よりぬき

現在、興味のあるモノや人、事象があればその理由も含め教えて下さい。

雲の形、色。

制作する上で常に気をつけていることがあれば、教えてください。

軽ければ軽いほど弱い風でも動くので、素材と対話をして、構造を考え、ギリギリの軽さや薄さで作品を作ること。

ご自身のアートの楽しみ方があれば、教えてください。

作品と共にアーティストの生き方、生き様を考える。


ありがとうございました。interviewer:yumisong.