Arafudo Art Annual 2014!

Festival of Art, Tsuchiyu Onsen, FUKUSHIMA

Interview with 増山士郎

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北アイルランドを制作の拠点としているアーティスト増山士郎さんは、インターネット上で複数の個人から資金を集めるクラウドファンディングにて制作費を集め、単身ペルーに乗り込み遊牧民と共に制作をする行動力のあるアーティスト。その土地に暮らしながら制作を行う「アーティスト・イン・レジデンス」の施設やプログラムで世界中を渡り歩いてきた経歴もあります。
アラフドアートアニュアル2014では民家園にて、映像作品『毛を刈ったアルパカのために、そのアルパカの毛でマフラーを織る / Weaving a woolen scarf for the alpaca I sheared using its own wool』を出品予定です。

増山士郎|Shiro Masuyama

1971年東京生まれ。明治大学建築学科大学院修士課程修了。2004年からベルリン、2010年より紛争地帯のベルファストを拠点に北アイルランド唯一の日本人芸術家として活動。
社会と関わる様々なプロジェクトを、建築出身のバックグラウンドを活かし、その地に根ざした形で世界各地で実現している。2002年よりポーラ、文化庁、ポロック財団などの助成金などを得て、ニューヨークのISCP、ベルリンのキュンストラーハウス・ベタニエン、ダブリンのアイルランド近代美術館、韓国国立現代美術館の主催するIASKなど、世界各地のアーティスト・イン・レジデンスを渡り歩きながら活動している。2013年より豊富なレジデンス経験を活かして、ビジュアル・アートでは北アイルランド唯一の国際レジデンスFlax Art Studiosのディレクターの1人になり、日本との文化交流にも力を入れている。
日本での主な展示に「あいちトリエンナーレ2013」(長者町、名古屋、2013)、「成層圏 行為の装填 Vol.2  増山士郎」(ギャラリーαM、東京、2011)、「Intervention」(市原市水と彫刻の森美術館、千葉、2010)、「所沢ビエンナーレ2009」(所沢、2009)など。
photo:『毛を刈ったアルパカのために、そのアルパカの毛でマフラーを織る / Weaving a woolen scarf for the alpaca I sheared using its own woo』

タイトル 毛を刈ったアルパカのために、そのアルパカの毛でマフラーを織る / Weaving a woolen scarf for the alpaca I sheared using its own wool 増山士郎 / Shiro MASUYAMA 2014年1月 プーノ、ペルー 映像 45分

『毛を刈ったアルパカのために、そのアルパカの毛でマフラーを織る / Weaving a woolen scarf for the alpaca I sheared using its own wool』増山士郎┃Shiro MASUYAMA/2014年1月/プーノ、ペルー/映像作品:45分

今まで知らなかった社会を知り、新たな作品をつくり出すこと

建築学科からアーティストになったそうですが、建築の影響はありますか?

見知らぬ土地に滞在して作品をつくる時に、その土地の環境や特性などをフィールドワークをもとに分析し、そこで実現すべきプロジェクトを考えて行く手法は建築学科で学んだことです。アーティストとしての活動を建築で学んだ手法で実行しています。

世界各地のアーティスト・イン・レジデンスを渡り歩いてきたという増山士郎さん。
アーティスト・イン・レジデンスの魅力を教えて下さい!

アーティスト・イン・レジデンス自体の参加は現在滞在している北アイルランドのアートセンター、Millennium Court Arts Centreの年間レジデンスで通算15個目です。ベルファストのFlax Art Studiosのレジデンス・ディレクターの1人となったのは、2009年にインターナショナルアーティストとして同プログラムに招待され、滞在中に現地にパートナーができたので2010年よりベルリンよりベルファストに移住しました。

そして、2013年よりベルファストのローカルアーティストとしてそのFlax Art Studiosにパーマネントスタジオを持つ事ができたのをきっかけとして、ディレクターの1人になりました。ちなみにFlax Art Studiosでのアイルランド人か英国人(スコットランド人含む)以外の所属アーティストは自分1人です。

アーティスト・イン・レジデンスの魅力は、見知らぬ土地に一定期間滞在し、今まで知らなかった社会を知り、人々や物との新しい出会いの中から、新しいインスピレーションを受けて、新たな作品をつくり出すことです。

北アイルランドの首都ベルファストで、外国人アーティストとして住むことは?

北アイルランドは紛争社会で、そこで生活する人々には紛争のトラウマがあるため、部外者の入りにくい閉鎖社会です。そのためか、この地に住み始めた時に予想以上に社会に溶け込むのに苦労しました。最初のきっかけから5年を費やして、ようやく地元のアーティストの一員として、社会の中に自分の場所を確保するができた印象です。

その反面、普段からイギリス人とアイルランド人が殺しあっている紛争社会に、全くの部外者である日本人という第三者的立場で身を置く事で、起こっている問題を感情的にならず客観的に捉えることができ、またそういった社会問題をテーマにどちらの立場に偏ることもなく、中立的立場から政治的な作品をつくることができるという利点が半永久的に自分にはあることに気づきました。

それは自分が誰の目にも、良い意味でも悪い意味でも自分が外国人であることが明白だからです。最近は、それをメリットとして、捉えて活動しています。

何か問題が起きても個人ではなかなか実現に結びつきにくい社会のシステムがある

出品作『毛を刈ったアルパカのために、そのアルパカの毛でマフラーを織る / Weaving a woolen scarf for the alpaca I sheared using its own wool』は、自給自足的生活がテーマと聞きましたが?

本作は「あいちトリエンナーレ2013」にも出品した、2012年にアイルランドのスライゴーで実現した、「毛を刈った羊のために、その羊の羊毛でセーターを編む」の次作にあたります。アイルランドの農家では羊の放牧が一般的に行われているにもかかわらず、そのほとんどが食肉のために飼われており、羊毛産業はほぼ失われてしまっています。アイルランドの伝統的羊毛産業を復刻するプロジェクトを行う時、このアイデアを思いつきました。

次作のアルパカのためのプロジェクトは、剃ったものを元の動物に戻すという動物繊維をつかったシリーズ作に共通する、自給自足的アイデアが根底にあります。羊のプロジェクトの次作として、アルパカの原産地の南米の高山地でプロジェクトを是非実現したいと思い、資金をクラウドファンディングのキックスターターで集め、実現にこぎつけました。

制作することで得られた経験はどんなものだったのでしょうか。

映像を見てわかると思いますが、人生で今までに行ったことのなかった、道も水道も電気もインターネットも携帯の電波もない、文明社会とは隔絶された標高4,900メートルの高山地で、土着の遊牧民の人々と共に生活をしました。遊牧民の生活を体験しながらプロジェクトを実現するのは、体力的に大変でしたが、大変さ以上にいろいろ考えさせられることの多い素晴らしい経験ができました。

『毛を刈ったアルパカのために、そのアルパカの毛でマフラーを織る / Weaving a woolen scarf for the alpaca I sheared using its own wool』増山士郎┃Shiro MASUYAMA/2014年1月/プーノ、ペルー/映像作品:45分

『毛を刈ったアルパカのために、そのアルパカの毛でマフラーを織る / Weaving a woolen scarf for the alpaca I sheared using its own wool』増山士郎┃Shiro MASUYAMA/2014年1月/プーノ、ペルー/映像作品:45分

動物の自毛を人間の技術を通して、もう一度身につけ直すという行為は、アイロニーに満ちていて、なおかつ詩的です。
人間の技術についてどのように考えていますか?

ペルーは日本に比べインフラが整備されておらず、問題が出れば街や行政などに個人で交渉することも少なくありません。一方で世界でも有数の行政によってインフラ整備がきちんとコントロールされた日本は便利ではありますが、それは同時に何か問題が起きても個人ではなかなか実現に結びつきにくい社会のシステムがあるということでもあります。今回のペルーは滞在で考えさせられた大きなことは、特に田舎の人たちがインフラ整備とは無縁に完全に孤立した『自給自足の生活』を送っているということです。

現代の生活に慣れてしまった私たち日本人にとって、このペルーのような社会が今まさに必要とされているのではないかと思うのです。ペルーでアルパカの首の毛を刈り、その刈った毛でマフラーをつくり、もとのアルパカに着けるという行為もそれらの動物にとっては大きなお世話ですが、よくよく考えてみれば、『自給自足的生活』や『自給自足的手法』なのです。

何があるかわからないアーティストの人生は刺激的で面白い

現在、興味のあることはなんですか?

北アイルランドのバレミーナという町に永久設置されるパブリックアートの最終候補アーティストの三組のうちの1人に選ばれてましたが、つい先日、自分のアイデアが最終的に選ばれたとの嬉しい通知をもらいました。

自分のキャリアで永久設置の作品は、初めて予算もこれまでで最大の仕事なので興奮しています。今後半年近くかかる、大きな仕事になるので、これから全精力をつぎ込んで準備して行く予定です。

制作する上で常に気をつけていることはありますか?

最近は、できるだけ、やって意味のあること、やった後に自分自身もやってよかったと思えるようなこと、アーティストの活動としてやっていきたいなと心がけています。アーティストとしては、昔よりも、自然体で作品をつくれるようになったかなと思います。

ご自身のアートの楽しみ方を教えてください!

これまでの自分の人生全ての経験が、アーティスト、そして表現者として作品に昇華されてきたと考えてます。今現在、北アイルランドの紛争地帯に骨を埋める覚悟で生活していますが、例えば、子供の頃に将来こんなことになるとは予想だにしませんでした。それもまた人生、何があるかわからないアーティストの人生は刺激的で面白いなと思っています。


ありがとうございました。interviewer:yumisong